青紫蘇の嫁とり
昔々、デリシャス村の外れに、栗じいさんと菊芋ばあさんが住んでおった。
じいさんとばあさんには、青紫蘇という息子がおるが、青紫蘇は栗じいさんのケチな性格に反発し村を出て行ったんじゃと。
そんでもなぁ、孝行もんの青紫蘇は節目には、じいさん、ばあさんに元気な顔を見せに村に戻ってきておった。
そんな青紫蘇が村に戻ってきたときのこと。
たまに来た青紫蘇のために菊芋ばあさんが、たあんと料理を作ったと。
ちょうど山菜がようけい採れる時期じゃったから
たけのこご飯・ピリ辛メンマ・わらびの煮物・葉玉ねぎのぬた・ばっけ味噌
こんな山菜料理で青紫蘇を迎えたんじゃと。
その料理を腹いっぱい食べた栗じいさんは、早々に眠ってしもうた。

菊芋ばさんは、とても気になっていた青紫蘇の嫁とりのことを聞いてみるのじゃった。
菊芋ばあさん「どうなっちょる?嫁とりの予定はないのんか」
青紫蘇「おらには、学問所に行ったときの借金がまだある。それを返さんうちは、嫁とりは無理じゃろうし、嫁をもろうたところで、そんなにいい事があるんじゃろうか」と話すのじゃった。
青紫蘇は、元気な様子を知らせて、次の日にはまた出て行った。
青紫蘇は今年36になっとった。
青紫蘇の幼馴染みも嫁とりをしとらんし、学問所の仲間で嫁とりをしとるもんには、金子(きんす)の苦労をしちょるもんが多かった。
そんな様子を見ていた青紫蘇は、「このまま気楽に暮らしたい」と思うようになっとった。

栗じいさんと菊芋ばあさんは、どちらも青紫蘇のことを大切に思っておったが
考え方が違うもんで、青紫蘇の嫁とりの話になると、よく喧嘩をしておった。
栗じいさんは、見合いをさせたらええと思っちょるし
菊芋ばあさんは、青紫蘇が連れてきた娘っ子がいいんじゃと思っちょった。
そんでも、青紫蘇が言った言葉を思い出しながら、菊芋ばあさんは、娘っ子を連れてくる日はないかもしれないと感じとった。
菊芋ばあさん「自分の人生じゃき、それでもいいが・・・」
「嫁をもろうて子を授かる、決して楽ではねえが、楽しい事がたんとあるのんにのぉ」
菊芋ばあさんは、家族がいる事の喜びを、青紫蘇に感じて欲しかったんじゃ。
ほんでも、青紫蘇が望んじょらんけえ、どうする事も出来んかった。
青紫蘇が帰ってから、菊芋ばあさんは、夜空を見上げては、お月様に問いかけるようになっとった。
菊芋ばあさん「なぁお月さんよぉ、嫁をとらんでも、幸せなもんはおるわなぁ」
「ほじゃけんど、家族がおるんは、自分の居場所があるっちゅうことじゃぁないんかのぉ」
「寂しい時は、気持ちを分ける事ができよるし、楽しい時は、倍に楽しむことが出来るんじゃないんかのぉ」
「人を慈しむ思いや、我慢しても守りたいという気持ちも育つのぉ」
なんぼ話しかけても、お月様は一つも答えることはなかったんじゃ。
そんでも、夜空に月が出た夜、菊芋ばあさんは、青紫蘇の事を思いながらお月様に話しかけとった。
菊芋ばあさん「なぁお月さんよぉ、嫁を取るんはわしじゃないのぉ、青紫蘇じゃ」
「だから、どうのこうのは言わんがなぁ、たとえ、嫁が来んでも、しかたないもんのぉ」
「ほじゃが、どんな嫁さんが来たら楽しいかのぉと想像するんは、わしの自由じゃよなぁ」
「・・・・・・・・」
「そうじゃ!!お月さんの隣に、かわいらしい青紫蘇の嫁さんの姿を思い浮かべることにしよる」
「これで、わしの気も晴れると言うもんじゃ」
菊芋ばあさんがいくら話しかけても、お月様は返事をせんかったと。
菊芋ばあさんは、青紫蘇に嫁が来んという不安を、かわいい嫁さんを想像することで紛らわしておった。
想像するうち、その嫁さんが笑ったように見えると、ばあさんはとても楽しくなるのじゃった。

菊芋ばあさんが、お月様に話しかけるようになって、いく晩も過ぎた頃のことじゃった。
村祭りの晩に、青紫蘇が戻っておった。
隣には、かわいらしい娘っ子がちょこんとおったんじゃと。
ひょうたん夫婦
昔々、デリシャス村の湖畔近くに、潮菜と小梅の夫婦が住んでおった。
二人には子がおらんかったが、それはそれは仲のいい夫婦じゃった。

村祭りの晩に、潮菜と小梅はこの祭りに二人で出かけとった。
祭りには、たくさんの出店があっての
物つくりが好きな潮菜は、「これはええのぉ」と素朴な器を手にとっては楽しんで、
器量よしの小梅は、蘆薈(ろかい)で作る美人水を試しては「これはええのぉ」と楽しんでおった。
そこには、隣村の仲のいい夫婦も来ておった。この夫婦にも、子がおらんかった。
どちらの夫婦も、祭りにおる子らが、飛んだり跳ねたりしてコロコロ笑う様子を見て、
「うちらに子がおったらええのにのぉ、楽しいじゃろうのぉ」と思うのじゃった。

隣村の嫁さんは、子が欲しゅうて欲しゅうて、たまらんくなっとった。
そして、その村の薬師に頼んでみたと。
嫁さん「おらたち夫婦に子が出来る薬を作ってくれんかのぉ」
薬師「出来んわけでもないが、たんと金子(きんす)が必要じゃ」
「それに、確実に子が授かる保証はねぇ」というのじゃった。
そんでも、子が欲しゅうて欲しゅうてたまらんかった嫁さんは、夫婦が貯めた金子をつぎ込んで、薬を買っとった。
一方、小梅は、村のばあさまにこんな話を聞いとった。
小梅「子がおったら楽しいじゃろうのぉ」
ばあさま「苦労も多いが、楽しいもんじゃ」
小梅「うちらに子は授からんのかのぉ」
ばあさま「そうかもしれんのぉ、仲のいい夫婦には子が入るすき間がないからのぉ」
小梅「子が・・入るすき間が・・ないんか」
ばあさま「そうじゃ、昔からそういいよる」
潮菜は、小梅のことをそれはそれは大切にしておった。
小梅は思うのじゃった。「うちはしあわせじゃ」
「ないもんを、欲しがらんでも十分しあわせじゃった」

その日の晩は、夜空にそれはそれは沢山のお星さんが出ておった。
朝早くから夜遅くまで働く潮菜に、布団をかけながら
「潮菜さんよぉ、ありがとうなぁ」
小梅は眠った潮菜に話しかけとった。
その後、潮菜と小梅に子が出来たかどうかはわからんが、
お互いを大切に思いながら、いつまでも仲良く暮らしたと。
しっかり者の苺
昔々、デリシャス村の隣村に すもも と言う母さまがおった。
すももには、子育てが苦手な そら豆 という夫と3人の子がおった。

そら豆は穏和な性格じゃったが、子供の扱いがようわからんかった。
そんで、家のことも、子供のことも、すもも が何でもやっておった。
この土地は、日照りや水害が多く、夫婦で働かねば食っていけんかった。
すもも は、面倒みの良い性格で、薬師に見込まれて、その手伝いをしておった。
じゃから、朝早く飯支度と洗濯をして、薬師の手伝いに行くのじゃった。
すもも の子は3人の年子で、真ん中に 苺 と言う女の子がおる。
上の子が病弱だったもんで、
父さま 母さま の留守は、苺 がなんでも手伝っておった。
苺 は小さいながらも、兄さまや弟の面倒をみるもんで、しっかり者のわらしっこになっとった。
苺 は、枯れ枝や葉っぱを集めては、物を作っておっての
それはそれは器用なもんで、人形を作ってみたり、想像したお屋敷を作ったりするのが好きじゃった。
ある時は、このお屋敷の模型があまりによく出来ておったもんで、
庄屋さんから褒美をもろうたこともあった。
そんなしっかり者の 苺 じゃったが、やはりわらしっこでな、
たまに 母さま にくっついていたい時があるんじゃ。
その日は許しを得て、母さまと薬師の所へ行くことになったんじゃ。

母さま は、忙しゅう薬師の手伝いをしとって、苺 に構っとる暇はなかった。
そんでも、苺 は近くに 母さま がいるだけで、
ほっとするようなほんわかした気分になるんじゃった。
薬師のところには、それは珍しい物がいっぱいあったんじゃ。
ピカピカするものやキラキラする物があって、
このピカピカした物やキラキラした物を使って、薬師はいろんなことをしておった。
その中のピカピカした物は、苺 の心を掴んで離さんかった。
その時、急な病人がいて薬師と母さまは、呼ばれておった。
すもも 「すぐ戻るからな、待っててな」と苺に言い残して出て行った。
そのピカピカしたものは、二つの刃で物をはさみ切断する道具で、
薬師はそのピカピカしたものを使って、いろんな物を切っておった。
苺 はわらしっ子ではあったが、
触ってはいけないものだろうとは思うのじゃ。
「薬師さまの大事な物じゃ・・」「触ってはいけん・・」
そのピカピカした物は、見る角度を変えると、更にピカピカしておった。
苺 「ちょっとだけ・・母さま たちが来る前に戻せばええ」
「ほんのちょっとだけじゃ」
そのピカピカした物を手に取った 苺 は、
薬師のように物を切る真似をしてみた。
「シャキィ」と、それは聞いたこともないような音がする。
苺 は夢中になって、手に取ったピカピカした物を眺めたり動かしたりしておった。
そんな時じゃ、「苺!!」と
それは驚くような大きな声で怒鳴る 母さま が後ろにおった。
驚いた 苺 は、手に取ったピカピカした物をどうしていいかわからず、
持ったまま動けんかった。
苺 は 母さま に叱られてから、どうやって帰ってきたのかを覚えておらん。
気がついたら朝になっておった。

覚えておるんは、母さま が酷く怒っていたことと、
自分の顔が腫れるほど泣いていたことじゃった。
苺 「あれは、夢じゃったろうか」
散々 苺を叱った後に、母さまがこんな事を言っとった気がするのじゃ。
「褒められる苺もわしの子じゃが、悪さする苺もわしの子じゃ」
そう言った母さまに、ギューッと痛いぐらい
抱きしめられていた・・
そんな気がするんじゃったと。